-
・・・こう云ったのは濃紺のジャケツの下にはでなチョッキを着た、色の白い新聞記者である。 この時小綺麗な顔をした、田舎出らしい女中が、燗を附けた銚子を持って来て、障子を開けて出すと主人が女房に目食わせをした。女房は銚子を忙しげに受け取って、女中・・・
森鴎外
「鼠坂」
-
・・・白のジャケツやら湯帷子の上に絽の羽織やら、いずれも略服で、それが皆識らぬ顔である。下足札を受け取って上がって、麦藁帽子を預けて、紙札を貰った。女中に「お二階へ」と云われて、梯を登り掛かると、上から降りて来る女が「お暑うございますことね」と声・・・
森鴎外
「余興」