・・・卓上の花瓶に生けた紫色のスウィートピーが美しく見えた。 会館前で友人と別れて、人通りの少ない仲通りを歩いていると、向こうから子供をおぶった男が来かかって、「ちょっと伺いますが亀井戸へはどう行ったらいいでしょう。……玉の井という所へ行くの・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・温室にスウィートピーが植込まれたところ。一本一本糸の手が天井から吊ってあり、巻ひげを剪ってある。或は細かい芽生。親切心のたっぷりした者でなくては園芸など出来ずと思った。温室のぶどう、バラの花を貰う。今度お菓子を持って行く約束。すっかり日がく・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・ もとスウィートピーにアスピリンをやったら、すっかり花が上を向いて紙細工のようになってうんざりしたことがあった。 この頃の小説の題は皆一凝りも二凝りもこって居ます。高見順の「起承転々」「見たざま」村山知義の「獣神」、高見順は説話体という・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 私は無器用に水色の紙テープで引くくった桃色と赤のスウィートピーの小さい花束を大事に持って帰って机の上にさした。〔一九二四年十月〕 宮本百合子 「粗末な花束」
出典:青空文庫