・・・なぜああいうふうにぎくしゃくした運動をしなければならないものかと思って見ているうちに、ふいと先刻見た熱帯魚を思い出した。スクリーンの長方形の格好もほぼあのガラス張り水槽と同じである。画面の灰色の雰囲気が水のようにも思われる。その中を妙な格好・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・言葉で現わされない人間の真相が躍然としてスクリーンの上に動いて観客の肺腑に焼き付くのであった。 こういう効果の中には自分自身でその場面に臨んだのではかえって得られないようなものも含まれていることを忘れてはならない。色彩と第三の空間次元を・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ 長さ数センチメートルの長い火花を写真レンズで郭大した像をすりガラスのスクリーンに映じ、その像を濃青色の濾光板を通して、暗黒にならされた目で注視すると、ある場合には光が火花の道に沿うて一方から他方へ流れるように見える。しかし実際はこの火・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・を見たときに、スクリーンに現われた地図の上を一本の光の線で示された鉄路の触手がにょろにょろと南に延びて行ってヒマラヤの北に近づくを見た。今度の探険隊員の講演の際壁にかけられた粗末な北氷洋の海図の上を赤い線で示された航路の触手がするすると東に・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・観客はかなりな距離にあって、視角の限定されたスクリーンに対しているから、空間の深さの判断の正確さは始めから断念してかかっている。従って音の出る場所がその音に相当する視像と少しちがった方向と距離とにあってもたいして苦にならない。しかし物を言っ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・ 幻燈というものがまだ珍しいものであったころ、亮がガラス板にかいた絵を、そのまま紙の小さなスクリーンに映写し、友だちを集めて幻燈会をやった事もあった。つまらないような事ではあるが、そういうふうの一種のオリジナリティもない事はなかった。・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ 印度人の小作りなのが揃って、唯灰色に荒れ狂うスクリーンの中で、鑿岩機を運転しているのであった。 ジャックハムマーも、ライナーも、十台の飛行機が低空飛行をでも為ているように、素晴らしい勢で圧搾空気を、ルブから吹き出した。 コムプ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・それとても条件の自由なスクリーンの上での影である。われわれを埃っぽくとりまく実際のきのう、きょうを見わたして、新しい恋愛や結婚が、はたしてブルジョア社会のどこに見出せるであろうか。 子福者小笠原伯爵の何番目かの娘さんが最近スポーツマンで・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ ソヴェト市民は、映画のスクリーンの上に見た、まだ雪が真白にのこっている早春の曠野で、疎らな人かげが働いているのを。測量器をかついで深い雪をこぎ、新しい集団農場の下ごしらえのために働いているコムソモールを照らす太陽と、彼等の白い元気のい・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・その他が麻雀をして遊んでいると、その遊戯を知らない何とか君という、ひどく太い眉毛の若者が傍のソファで仮睡をし、夢で女賊マジャーンに出会するという筋なのだが――マジャーンが、スワンソンの蜂雀通りの扮装でスクリーンの上に蜂雀通りの順序で現れると・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
出典:青空文庫