・・・コンディトライには家庭的な婦人の客が大多数でほがらかににぎやかなソプラノやアルトのさえずりが聞かれた。 国々を旅行する間にもこの習慣を持って歩いた。スカンディナヴィアの田舎には恐ろしくがんじょうで分厚でたたきつけても割れそうもないコーヒ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・朝食後甲板で読書していたら眠くなったので室へおりて寝ようとすると、食堂でだれかがソプラノでのべつに唱歌をやっている。芸人だとかいうオランダ人の一行らしい。この声が耳についてなかなか寝られなかった。それで昼食後に少し寝たいと思うと、今度はまた・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 会堂内で葬式のプログラムの進行中に、突然堂の一隅から鋭いソプラノの独唱の声が飛び出したので、こういう儀式に立ち会った経験をもたない自分はかなりびっくりした。あとで聞いたら、その独唱者は音楽学校の教師のP夫人で、故人と同じスカンジナビア・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・しかし音の音程や音色は実にヴァイタルな重要性をもっている。ソプラノがベースに聞こえたりうぐいすの声が鵞鳥のように聞こえるのでは打ちこわしである。前述のピストルの場合でも音の強度より音色のほうが大切である。近いピストルの音と遠いピストルの音と・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・女のアルトであり、若々しいソプラノであるだろう。握る拳さえ、女は女のこぶしを握るのである。本質の女らしくなさ、がどこにあるだろう。そうして、活溌に論じ、行動する女の女らしさをいじらしく、雄々しく見ることの出来ない人々が、また、逆に「女らしさ・・・ 宮本百合子 「「女らしさ」とは」
・・・女らしい女心、女の心ですから女心になりますけれども、同じことをいっても女の声は自然にソプラノになるのだから。女はまた女の持っている特殊な社会状態があるから男の知らない状態もたくさんあるわけです。それを正面から女らしさという問題で片づけるので・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・女の喉しかソプラノの声は出さない。美しいソプラノの出る、または味のあるアルトの出るよい女性の喉を持ってさえおれば、声楽家として第一の必須条件は生理的に具わっている。規律正しい練習、健康法、その他の勉強をしてゆくに強大な忍耐と意志と聰明さがい・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・スポーツとソプラノで、多数の若い女が只動物的な活力を横溢させている一方、少し頭脳型のひとは口づたえの呪文のように空虚感や無目的感を誇張するとすれば、それは今日の文化がいかに本質的に低いかを語る悲しい滑稽の一つなのである。 若しそれを今日・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
出典:青空文庫