・・・遥のかなたに小名木川の瓦斯タンクらしいものが見え、また反対の方向には村落のような人家の尽きるあたりに、草も木もない黄色の岡が、孤島のように空地の上に突起しているのが見え、その麓をいかにも急設したらしい電車線路が走っている。と見れば、わたくし・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・これは丸形の石造で石油タンクの状をなしてあたかも巨人の門柱のごとく左右に屹立している。その中間を連ねている建物の下を潜って向へ抜ける。中塔とはこの事である。少し行くと左手に鐘塔が峙つ。真鉄の盾、黒鉄の甲が野を蔽う秋の陽炎のごとく見えて敵遠く・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ それは、飲料水タンクを修理することだ。 若し、彼女が、長い航海をしようとでも考えるなら、終いには、船員たちは塩水を飲まなければならない。 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・合唱「いさおかがやく バナナン軍マルトン原に たむろせど荒さびし山河の すべもなく饑餓の 陣営 日にわたり夜をもこむれば つわもののダムダム弾や 葡萄弾毒瓦斯タンクは 恐れねどうえとつかれを い・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・トラクターをのりこなす若者たちはタンクに苦労する必要がなかった。ソヴェト式に自分たちの仕事を分担し組織する能力と習慣とをもった農村出身者たちは、東ドイツの村落へ行っても、その能力を発揮した。勤労者の技術学校があるということは、そこの共学の教・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・氷原の上を、タンクのようなものや何かが通る、停車場のようなところに自分、多勢の白衣の少女と居る。自分、英語で、劬りながら話した。 How old are you?など。少女一寸英語で返事するがうまく云えず困って居る。 ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫