・・・骨董の佳い物おもしろい物の方が大判やダイヤモンドよりも佳くもあり面白くもあるから、金貨や兌換券で高慢税をウンと払って、釉の工合の妙味言うべからざる茶碗なり茶入なり、何によらず見処のある骨董を、好きならば手にして楽しむ方が、暢達した料簡という・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・其処へ行くと哀れや、色さまざまのリボン美しといえども、ダイヤモンド入りのハイカラ櫛立派なりといえども、それらの物の形と物の色よりして、新時代の女子の生活が芸術的幻想を誘起し得るまでには、まだまだ多くの年月を経た後でなければならぬ。新時代の芸・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・女の目は勝利の嬉しさに夜の闇の中に光って居るダイヤモンドの様にキラメイて居た。 それから又男は一日に一度はキッと女の家の格子をあけた。一日中居る事も夜更けてかえる事もあった。けれ共女が男にさわる事をゆるしたのはそのつめたくて美くしい手の・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・彼の二重瞼の大きな眼は明るい太陽の真下でも、体中に油を塗りつけた宝玉商の Thengobrind が「死人のダイヤモンド」を盗もうとして耳のような眼玉を輝かせた蜘蛛の魔物の膝元に忍び寄る姿を見るだろう。 真個に彼は、奇怪な美を持っている・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 葉は叩いたら、リリーン、リリーンと云いそうなかたくしまった光りを持って居て葉のふちは極く極く細かいダイヤモンドをつないだ様にさえすんだ輝きを持って居る。 美くしいと云う中に謙遜な様子をもってきりょうの良くて心のすなおな身柄のいい処・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・が白銀の糸でとり手を作ってるヒーラヒーラ黒蝶が紫陽花にとぶ夏の夕 〔無題〕カガヤケ かがやけ可愛い御星あなたは一体どんな人そんなにたのしくキラキラと天のダイヤモンド そのように……偉いお日・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫