・・・そして医者や友達の勧めるがまま運動を始めた。テニスもやった、自転車も稽古した。食物でも肉類などはあまり好きでなかったのが運動をやり出してから、なんでも好きになり、酒もあの頃から少し飲めるようになった。前には人前に出るとじきにはにかんだりした・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・ テニスンの詩「プリンセス」に「戦士の亡骸が運び込まれたのを見ても彼女は気絶もせず泣きもしなかったので、侍女たちは、これでは公主の命が危ういと言った、その時九十歳の老乳母が戦士の子を連れて来てそっと彼女のひざに抱きのせた、すると、夏の夕・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・午后はみんなでテニスコートを直したりした。四月二日 水曜日 晴今日は三年生は地質と土性の実習だった。斉藤先生が先に立って女学校の裏で洪積層と第三紀の泥岩の露出を見てそれからだんだん土性を調べながら小船渡の北上の岸へ行・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・運動場もテニスコートのくらいでしたが、すぐうしろは栗の木のあるきれいな草の山でしたし、運動場のすみにはごぼごぼつめたい水を噴く岩穴もあったのです。 さわやかな九月一日の朝でした。青ぞらで風がどうと鳴り、日光は運動場いっぱいでした。黒い雪・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 学校といっても入口とあとはガラス窓の三つついた教室がひとつあるきりでほかには溜りも教員室もなく運動場はテニスコートのくらいでした。 先生はたった一人で、五つの級を教えるのでした。それはみんなでちょうど二十人になるのです。三年生はひ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 式場は、教会の広庭に、大きな曲馬用の天幕を張って、テニスコートなどもそのまま中に取り込んでいたようでした。とてもその人数の入るような広間は、恐らくニュウファウンドランド全島にもなかったでしょう。 もう気の早い信徒たちが二百人ぐらい・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そしてテニスだのランニングも必要だと云って盛んにやっている。諸君はテニスだの野球の競争だなんてことはやらない。けれども体のことならもうやりすぎるくらいやっている。けれどもどっちがさきに進むだろう。それは何といっても向うの方が進むだろう。その・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・その中に美しい孤独のシャロットの姫君が登場する。テニスンが物語っているとおり古い城の塔の中に孤独な生活をしているシャロットの姫はというとその古い蔦のからんだ塔の中で一面の大きな鏡の前で機を織って暮している。もしシャロットの姫を愛し、その孤独・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・いい生活というとき、芝生があってテニスコートもあるような家を心に思い浮べるのは、どんな卑俗な若者でも、映画ぐらい見ていれば一応は描く空想であろう。どしどし仕事をして儲けて、それを実現する生きかたは、小説にかかれるまでもなく踏み古された凡庸な・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・「思いがけないことには、テニス・コートと小さい釣堀がある、コートはいいでしょう?」 私は、フダーヤの親切を大層うれしく感じた。東京の家は、家の建ものとしてわるくはないのだが、両隣が小工場であった。一方からは、その単調さと異様な鼓膜の震動・・・ 宮本百合子 「この夏」
出典:青空文庫