・・・すると、僕といっしょにふりむいたジョオンズは、指をぴんと鳴らしながら、その異人の方を顋でしゃくって He is a beggar とかなんとか言った。「へえ、乞食かね」「乞食さ。毎日、波止場をうろついているらしい。己はここへよく来る・・・ 芥川竜之介 「出帆」
・・・It is a dog――ナショナル・リイダアの最初の一行はたぶんこういう文章だったであろう。しかしそれよりはっきりと僕の記憶に残っているのは、何かの拍子に「お師匠さん」の言った「誰とかさんもこのごろじゃ身なりが山水だな」という言葉である。・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・「こういう句があります、Awake, poor troubled sleeper: shake offthy torpid night-mare dream.即ち僕の願とは夢魔を振い落したいことです!」「何のこと・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 別に不思議はない、“Man descends into the Vale of years.”『人は歳月の谷間へと下る』という一句が『エキスカルション』第九編中にあって自分はこれに太く青い線を引いてるではないか。どうせ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・“――Let us matchThis water's pleasant tuneWith some old Border song, or catch,That suits a summer's noon.”の・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・len Key : Love and marriage.Freud : Vorlesungen zur Einfahrung in die Psychoanalyse.Kollontai : A great love.Tolst・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・それについて入念な――“Eternal Prostitution”“Periodical Prostitution”“Five yen a time”というような言葉までできていた。彼はその事について、恵子にたずねた。恵子は――「そんなこと・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・Fact and Truth. The Ainu. A Walk in the Hills in Spring. Are We of Today Really Civilised? 彼は力いっぱいに腕をふるった。そうしていつもかなりに報いら・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・In a word 久保田万太郎か小島政二郎か、誰かの文章の中でたしかに読んだことがあるような気がするのだけれども、あるいは、これは私の思いちがいかも知れない。芥川龍之介が、論戦中によく「つまり?」という問を連発して論敵をな・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・しかし、のろまな妻は列車の横壁にかかってある青い鉄札の、水玉が一杯ついた文字を此頃習いたてのたどたどしい智識でもって、FOR A-O-MO-RI とひくく読んでいたのである。 太宰治 「列車」
出典:青空文庫