・・・そしておまけに、早く大人がって通がりそうなトーンが、作全体を低級な卑しいものにしていると書いてあります。」 僕は、不快になった。「お気の毒ですな。」角顋は冷笑した。「あなたの『煙管』もありますぜ。」「何と書いてあります。」「・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・ 衣摺れが、さらりとした時、湯どのできいた人膚に紛うとめきが薫って、少し斜めに居返ると、煙草を含んだ。吸い口が白く、艶々と煙管が黒い。 トーンと、灰吹の音が響いた。 きっと向いて、境を見た瓜核顔は、目ぶちがふっくりと、鼻筋通って・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・前者は集積し凝縮し電子となりプロトーンとなり、後者は一つにかたまり合って全能の神様になり天地の大道となった。そうして両者ともに人間の創作であり芸術である。流派がちがうだけである。 それゆえに化け物の歴史は人間文化の一面の・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 七味唐辛子を売り歩く男で、頭には高くとがった円錐形の帽子をかぶり、身にはまっかな唐人服をまとい、そうしてほとんど等身大の唐辛子の形をした張り抜きをひもで肩につるして小わきにかかえ、そうして「トーン、トーオン、トンガシノコー、ヒリヒリカ・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・一貫した生活のトーンで、私の生活の波長をはっきりお感じになるというのは、私にもわかる。そして、私は、はっきりそのことを感じてもいるのです。私の生活の響が応えられていることを。 さあ、本当にこうしていないで髪を洗わなければ。さっきの手紙を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼女の夫は国立音楽学校でバリトーンをやっている。ターニャは暇があると当直室の机へむき出しの腕をおっつけて代数を勉強した。毎晩六時から十一時まで彼女はブハーリンの名におけるモスクワ大学の労働科で、革命がブルジョアの独占からプロレタリアートに向・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・く、石浜金作氏の近作に於けるが如く、時間空間の観念無視のみならず一切の形式破壊に心象の交互作用を端的に投擲することに於て、また如実派の或る一部、例えば犬養健氏の諸作に於けるがごとく、官能の快朗な音楽的トーンに現れた立体性に、中河与一氏の諸作・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫