・・・今日と同様だったかもしれないし、たぶん同様なのだろうが、自分がそのようにして一個の判断、見解をもっていないという事実に対する当人たちの自覚のありよう、感情の在りようは、何処か今日の人々の心とはちがったニュアンスを持っていた。 自分にはよ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・今日の日本の文化を語る時、私達はこの二年数ヵ月の間に経験された日本民主化のいくつかの段階の推移と、その推移の間に現われた極めて日本らしい特徴をもったそれぞれのニュアンスについての理解を必要とする。第一期 一九四五年八月十五日――一九・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・という標語を「言葉のデリケエトなニュアンスの上に」うち立てたのであった。 フェルナンデスの云う「行動は人間の社会性を意味し、ヒューマニズムは個人の完成を意味する。」小松清氏の「行動主義理論」は更にフランスの行動主義文学の特殊な地位につい・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・モチーフは、テーマの直観的な端緒と云うとき、その現実の内容は豊富きわまりなく、或る一つの作品を一貫する文学的感動のニュアンスをきめるものもモチーフである。作者と作品と作品のつくられて来る現実という三つの関係へ、方向をつける必然の力として作者・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・一種の皮肉をふくませたニュアンスでいわれた。 日本にプロレタリア文学運動が起り、それがしだいにまとまり整理されて世界的な動きの水準に接近したのは、一九二八年ころのことであった。プロレタリア文学は、その発生の本質において、そもそも既成のブ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・その心持には、病人がはたの親切をへりくだった感謝でうけるというのとは、おのずからちがって複雑なニュアンスがこもっているのである。 思えば、妻は健かでなければならぬという常識の中に、何と深く動かしがたく、家というものにおける女の歴史的な立・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・なお、考えさせられることは、作者の人間に対して抱いている観念そのものが、作者の地主としての農村に於ける生活のニュアンスから蒙っている影響や、人間の生きようというものに対して時局が要求している調子に或る反響を示している点である。さもなければ、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・を発表したということは、なかなか複雑な社会史的ニュアンスがこもっていると思う。 大体福沢諭吉が益軒の「女大学」を読んで、それに疑義を抱き、手控えをこしらえはじめたのは彼の二十五歳の年、大阪から江戸へ出た時代の事である。「学問のすすめ」は・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・それぞれニュアンスの相異はあるにしろ、戦争反対者は「赤」であるという事実の理解では一致していた。 ところが、今日になると、軍国主義者は共産主義者だといわれはじめた。この発言が事実と逆であり、愚劣であり、国際的な嘘であることがわからないで・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・あれほど一字一句の使い方、置き方に気を配った歌、あれほど浮いたところのない、中味のびっしりとつまった歌、またあれほど濃かいニュアンスを出した歌が、技巧に熟達せずに作れるものではない。しかし先生の歌は、その巧みさを少しも感じさせないほど巧みな・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫