・・・三人が歩くと、それがバリ/\と靴に踏み砕かれて行った。 一町ほど向うの溝の傍で、枯木を集めようとして、腰をのばすと浜田は、溝を距てゝ、すこし高くなった平原の一帯に放牧の小牛のような動物が二三十頭も群がって鼻をクンクンならしながら、三人を・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・二人がバリ/\雪を踏んでそこへかかるなり、すぐそのさきの根本から耳の長いやつがとび出した。さきにそれを見つけたのは吉田であった。「おい、俺にうたせよ――おい!……」 小村は友の持ち上げた銃を制した。「うまくやれるかい。」「や・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。そして、オモリをつけて沈めておくと、タコはその白いものに向かって近づいて来る。食べに来るわけではなく、どういう考えか知らないが、白いものの上に坐る・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・彼女の夫は国立音楽学校でバリトーンをやっている。ターニャは暇があると当直室の机へむき出しの腕をおっつけて代数を勉強した。毎晩六時から十一時まで彼女はブハーリンの名におけるモスクワ大学の労働科で、革命がブルジョアの独占からプロレタリアートに向・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫