・・・この音の流れて行く末にシャトーのバルコニーが現われて夢見るような姫君のやるせない歌の中にこの同じ主題が繰り返さるる。そうして最後のリフレーンで「イズンティット・ロマーン」まで歌った最後の「ティック」の代わりに、バルコンの下から忍びよるド・サ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・そこへ、今日は、モスクワでは珍しい日本女まで混えた大群集が六階の天辺のバルコニーまで、チェホフの「桜の園」を観ようとつめかけた。 棧敷の内張も暗紅色、幾百の座席も暗紅色。その上すべての繰形に金が塗ってあるからけばけばしい、重いバルコニー・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ 消防自動車が出てもその場を去らず、やがて百名の警官が出動して、丸の内署長がバルコニーから演説して、やっと群集が散った後には、主を失った履ものだの、女の赤いショールだのが算を乱していたという記事は、その場に居合わせなかった私たちにも、竦・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・後から取りつけたに違いないバルコニーが一つ無意味に中空にとび出している。したに、 ホテル・パッサージ 新しいロシアに就ては未だ沢山書きたいことがあるし、又書かなければならない事がある。モスクワ生活の印象としてもこれは一部分だ・・・ 宮本百合子 「モスクワ印象記」
出典:青空文庫