・・・花に埋められ香をたきこめられてビザンチン型の古い十字架聖像が奥深くすえられてあった。それを見るとクララは咽せ入りながら「アーメン」と心に称えて十字を切った。何んという貧しさ。そして何んという慈愛。 祭壇を見るとクララはいつでも十六歳の時・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ この頃は城壁内の青草が茂って、ビザンチン式の古風な緑や茶色の尖塔はなかなか趣ある眺望だ。円屋根にひるがえる赤旗は、まわりを古風な建物がとりかこんでいるだけかえって新鮮で、光る白い雲の下で夏の歓びにあふれている。 クレムリンの城壁が・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・木立の上で、緑、黄、卵色をよりまぜた有平糖細工みたいなビザンチン式教会のふくらんだ屋根が、アジア的な線でヨーロッパ風な空をつんざいている。 掘割に沿って電車が走って行く。 再び公園だ。菩提樹のなかにロシアのイソップ・クルイロフの・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・色は多様で燦いているが輪廓が鮮明に動いていないところは、どこやらビザンチン式モザイックの趣があり、過去のロシアの民衆の内部にあった感受性の或る傾向を示すものではなかろうかと考える折があります。 一つの現実に対して、ゴーリキイは丁度ヴォル・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫