・・・の生活についてファーブルに比すべき研究のあったこの人に、かくのごとき質問をするのは、間違っていたと、私はすぐに気付いたのでした。 その後でした。私は撒布液のはいった、器械を手に握って、木の下に立っていると、うしろから、「お父さん、い・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・あらゆる新聞講談から茶番狂言からアリストファーネスのコメディーに至るまでがそうである。笑わせ怒らせ泣かせうるのはただ実験が自然の方則を啓示する場合にのみ起こりうる現象である。もう少し複雑な方則が啓示されるときにわれわれはチェホフやチャプリン・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ドイツでは行っても行っても洪積期の砂地のゆるやかな波の上にばらまいた赤瓦の小集落と、キーファー松や白樺の森といったような景色が多い。日本の景観の多様性はたとえば本邦地質図の一幅を広げて見ただけでも想像される。それは一片のつづれの錦をでも見る・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ではアルファー」「アルファー」「ビーター」「ビーター」「ガムマー」「ガムマーアー」「デルター」「デールータァーアアア」 実に不思議です。いつかシグナルとシグナレスとの二人は、まっ黒な夜の中に肩をならべて立っていました。・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ 蝶、蜂、蟻などの物語は第十話第十一話にあるが、この章へ来てフランスのアンリ・ファーブルの「昆虫記」を思い出さない読者はおそらく一人もないだろう。ファーブルの昆虫記は卓抜精緻な観察で科学上多くの貢献をしているし、縦横に擬人化したその描写・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
六月一日私は 精神のローファー定った家もなく 繋がれた杭もなく心のままに、街から街へ小路から 小路へと霊の王国を彷徨う。或人のように 私は古典のみには安らえない。又、或人のように、・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・で幸徳秋水以下三十余名の人々が検挙され、ファーブルの『昆虫の社会』という本まで社会という字がついていると云って発禁されるような、日本の社会主義弾圧のもとに暴力的な日韓合併が行われた年であった。この一九一〇年にコペンハーゲンで第二インターナシ・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
・・・ 科学者と云われるひとたちが、自身の誤った文学性で折角の科学的観察や記述の価値を混乱させている例は、ファーブルやシートンにも見られる。チンダルがアルプスの氷河をかいた作品などは、文学として素人であっても、科学的な態度の一貫した観察と記述・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
出典:青空文庫