・・・彼は、眠った風をして、プラットフォームに眼を配った。プラットフォームは、彼を再び絶望に近い恐愕に投げ込んだ。 白い制服、又は私服の警官が四五十人もそこに網を張っていた。 汽車はピタッと止った。 だるい、ものうい、眠い、真夜中のう・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・『あらッ、プラットフォームに入れてよ。彼様に人が入ってよ。美子さん早く入らッしゃい。』 若子さんも私も駆出してプラットフォームへ入ったのでした。此処とても直きに一杯の人になって了ったし、汽車がもう着くかもう着くかと、其方にばかし気を・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・列車がプラットフォームへ止るや否や、Y、日本紳士をヘキエキさして「キム」に関係があるかもしれぬという名誉の猜疑心を誘発させたところの鞣外套をひっかけてとび出してしまった。 後から、駅の待合室へ行って見たが、そんな名物の売店なし。又電燈で・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
洋傘だけを置いて荷物を見にプラットフォームへ出ていた間に、児供づれの女が前の座席へ来た。反対の側へ移って、包みを網棚にのせ、空気枕を膨らましていると、「ああ、ああ、いそいじゃった!」 袋と洋傘を一ツの手に掴んだ肥っ・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・ そこへ、一台電車が入って来た。プラットフォームの群集は、例のとおり、止りかかる電車目がけて殺到した。すると、高く駅員の声が響いた。「この電車は、南方より復員の貸切電車であります。どなたも、おのりにならないように願います」 丁度・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・ 外国のひとたちは旅行して汽車にのっても、停車場へ止ったときは降りて、プラットフォームを散歩する。そういう活動的な習慣はこのごろ若い人々の間に移って来て、旅の楽しさ、旅の間に動いている人間らしい目付の溌剌とした輝きが快く目にとまるように・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・体が、混んだプラットフォームに揉まれるばかりか、精神も押され押されて一つの扉口をいや応なく通過させられる状態にある。この場合、私たちの肉体が乱暴なつめこみにたいしてつねにいやさを感じるとおり、精神のラッシュにたいしてつよい不服を感じ抗議を抱・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・が、その連中は会社側が渡した日の丸の旗を振ることを大衆的に拒絶し、プラットフォームで戦争反対の演説をやって、メーデー歌を合唱したという話がある。又、ストライキに入った第一日に従業員出身の現役兵が籠城中の争議団員のところへやって来て、一緒に「・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・東海道本線では有名で、幾とおりものプラットフォームには、殆どいつも長い客車、貨物列車のつながりが出入りしているのに、駅じゅうに赤帽がたった一人しかいない。しかもその赤帽である若い男は、何と呑気な生れつきであろうか。もう一つの特色として、この・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・しかしプラットフォームには汽車の影が見えない。汽車だって一分ぐらい遅れる事はあるし、自分の時計だって一分ぐらい進んでいないとは限らないなどと思いながら停車場へはいって行くと、そこの大時計はちょうど汽車よりも二分先へ出ていて、駅夫が次の汽車の・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫