・・・その別に取立てて云うほどの何があるでも無い眼を見て、初めて夫がホントに帰って来たような気がし、そしてまた自分がこの人の家内であり、半身であると無意識的に感じると同時に、吾が身が夫の身のまわりに附いてまわって夫を扱い、衣類を着換えさせてやった・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・それも道理千万な談で、早い譬が、誤植だらけの活版本でいくら万葉集を研究したからとて、真の研究が成立とう訳はない理屈だから、どうも学科によっては骨董的になるのがホントで、ならぬのがウソか横着かだ。マアこんな意味合もあって、骨董は誠に貴ぶべし、・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・「町の方でポツポツ見に来て下さる方もあります……好きな人もあるんですネ……しかし私はまだ、この土地にはホントに御馴染が薄い……」 学士は半ば独語のように言った。 正木大尉が桑畠の石垣を廻ってニコニコしながら歩いて来た。皆な連立っ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・草田ノ家ヘ、カエリナサイ。 スミマセン。トニカク、カエリナサイ。 カエレナイ。ナゼ? カエルシカク、ナイ。草田サンガ、マッテル。 ウソ。ホント。 カエレナイノデス。ワタシ、アヤマチシタ。バカダ・・・ 太宰治 「水仙」
・・・するとまた、「ホントだ、あいつこんにゃく屋なんだネ」 と、違った声がいう。私は勇気がくじけて、みんなまできいてることが出来ない。こんにゃくを売ることも忘れて、ドンドンいまきた道をあと戻りして逃げてしまう。 こんなとき、私が、・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・それ等について、ホントに知りたい読者は、どうか、今に出るそのプロレタリア芸術講座をよむなり、『ナップ』を読むなりして欲しい。 ところで、ここではなにを話そうか。――そう! 一つ、ソヴェトの文学研究会のことを書いて見よう。 ソヴェトの・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ ところで、文学的月評は、書く顔ぶれをかえることだけで、ホントに生気ある文化的価値をふき込まれるだろうか? 思うに、それは姑息である。 行きつまったブルジョア文壇の生産力を、新しいプロレタリア文学の作品が圧倒しつつある。従って文・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・「では誰のアミが現代のアクタモクタをホントにしゃくいあげることができるだろう? 田村泰次郎のアミがそれだなどと言う人があったら、失礼ながら私はひっくりかえって笑わなければならぬ云々」「戦争を自分のなま身でもって生き、通過して来た上で、作家と・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・『婦人戦旗』は、われわれにホントにプロレタリアの女として、世の中をどう見て、どう暮してゆくかを教える、たった一つのホンモノの雑誌です。〔一九三一年八月〕 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・という大したネウチもない作品を思い出すのは、今こそ自分は少しはホントにプロレタリア、農民の役に立つものとなったという喜びのためだ。 今こそ、武器は一本のペンであろうとも、自分はそれをもって守るべき味方と正義と、闘うべき敵を、階級として実・・・ 宮本百合子 「「処女作」より前の処女作」
出典:青空文庫