・・・おれの事だからいつだかわからんと云ったような事を云うてザブ/\とすまし、机の上をザット片付けて革鞄へ入れるものは入れ、これでよしとヴァイオリンを出して second position の処を開けてヘ調の「アンダンテ」をやる。1st とちがっ・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・ずっと後に先生が留学から帰って東京に住まわれるようになってから、ある時期の間は、ずいぶん頻繁に先生のお宅へ押しかけて行って先生のピアノの伴奏で自己流の演奏、しかもファースト・ポジションばかりの名曲弾奏を試みたのであったが、これには上記のよう・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ 勿論、今のポジションを使用して、有難がらせようという程さもしくはなって居ない。 只、私の胸をときどきに満たす、彼の遙かな、しみじみとした、人間らしい感動に一寸でもひたらせて遣りたい、あげたいという心持である。 其等の感謝から起・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫