・・・おうちの近くのポストのところまで来て、小脇にかかえていたスルメの新聞包が無いのに気がつきました。私はのんき者の抜けさんだけれども、それでも、ものを落したりなどした事はあまり無かったのに、その夜は、降り積る雪に興奮してはしゃいで歩いていたせい・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・三月十四日 ペンで細字で考え考え書いてしまったのを懐にして表のポストに入れに出た。そして今書いた事を心でもう一遍繰り返しながら、これを読んだ時に黒田の苦い顔に浮ぶべき微笑を胸に描いた。・・・ 寺田寅彦 「イタリア人」
・・・夏目先生が帰ってからすぐに筆をとってこの端書をかき、そうして、おそらくすぐに令妹律子さんに渡してポストに入れさせたのではないかとも想像される。それが最後の集便時刻を過ぎていたので消印が翌日の日附になったものであろう。 それはとにかく「四・・・ 寺田寅彦 「子規自筆の根岸地図」
・・・science in this country, a development reserved for future accomplishment by the hand of this young post-graduate in phy・・・ 寺田寅彦 「PROFESSOR TAKEMATU OKADA」
・・・車掌が next station Post-office といってガチャリと車の戸を閉めた。とまるたびにつぎの停車場の名を報告するのがこの鉄道の特色なのである。向うの方に若い女と四十恰好の女が差し向いに座を占めていた。吾輩の右に一間ばかり隔・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・四つ辻の赤いポストも美しく、煙草屋の店にいる娘さえも、杏のように明るくて可憐であった。かつて私は、こんな情趣の深い町を見たことがなかった。一体こんな町が、東京の何所にあったのだろう。私は地理を忘れてしまった。しかし時間の計算から、それが私の・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・そのポストが大整理という苦しい仕事に当面していず、たんまり利権の汁につかっている実利の地位であったのなら、いまの腐敗した政党人たちが、何でおとなしい技術出の個人にそんな椅子をゆずっておこう! 民自党の本質的なこわさが、故人の運命をアーク燈の・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・私は毎日、特別な心持でポストをあけて居ります。 追伸。お下げになった夏の着物は三日ばかり前につきました。[自注2]鶴さん――窪川鶴次郎。[自注3]咲枝――百合子の弟の妻。 二月十七日 〔市ヶ谷刑務所の顕・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・附近一帯の大地主である××では、石塀をめぐらした主家のまわりに、米やと花卉栽培とをやる家があって、赤いポストが米屋の前に立っている。そこでは、切手も売るのであった。札のかかっている横を入って菊畑へ行ってみたらば、そこの棚にのって飾られている・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・戦争犯罪によって頭株をとられた進歩党が、築地の待合に共産党をのぞく各派の主だつ婦人たちをよんで、出席した者に、進歩党内の重要なポストを与える談合を行った。生産面における勤労階級の婦人の永年に亙る犠牲によって、日本の婦人参政権はもたらされたも・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
出典:青空文庫