・・・、一日家にいて、そして寿子が学校へ出掛けた留守中は、どうすれば人一倍小柄な寿子の貧弱な体格で、元来西洋人の体格に応じた楽器であるヴァイオリンが弾きこなせるだろうか、どうすれば人一倍小さな寿子の指で弦がマスターできるだろうかと、考え込んでいた・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・蝶子の機嫌はすこぶる良かった。マスターこと「おっさん」の柳吉もボックスに引き出されて一緒に遊んだり、ひどく家庭的な雰囲気の店になった。酔うと柳吉は「おい、こら、らっきょ」などと記者の渾名を呼んだりし、そのあげく、二次会だと連中とつるんで今里・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そして、自分の良人を呼ぶのにさえその名を云わず“Our master”と呼ぶ、と云ったと仮定します。 これを見た日本人は、恐らく、一言を付加せずにはいられない心持が致しましょう。 勿論、日本にもそんな無情な良人がないことはない。けれ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫