彼は十円持って喫茶店へ行き、一杯十円の珈琲を飲むと、背を焼かれるような後悔に責められた。 隣のテーブルでは、十二三の少年が七つ位の弟と五つ位の妹を連れて、メニューにあるだけのものを全部注文していた。そして、二百円払って・・・ 織田作之助 「ヒント」
・・・ と、豹吉は店の女の子を呼んで「――この子供らに、メニューにあるだけのもン、何でも食わせてやってくれ」 どうやら靴磨きの少年達に御馳走することには、反対らしいお加代への面当てに、わざとそう言った。「何でもって、全部ですか」 ・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ 四 ある食堂の片隅の食卓に女学生が二人陣取ってメニューを点検していた。「何たべる」「何にしよう」……「御飯だの、おかずだの別々にたべるの面倒くさいわ、チキンライスにしましょう」。 ある家庭で歳末に令嬢二・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・オムレツと焼玉子の合の子のようなものが、メニューの中にあった。「味つき」と「味なし」と二通りあった。「オイ、味なし」。「味つき」。そういうどら声があちらこちらに聞こえた。今は雑使婦か何かの宿舎になっているらしい。そのボロボロの長屋に柿色や萌・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
出典:青空文庫