・・・ それは道徳的意識に根ざした、何物をも容赦しないリアリズムである。 菊池寛の感想を集めた「文芸春秋」の中に、「現代の作家は何人でも人道主義を持っている。同時に何人でもリアリストたらざる作家はない。」と云う意味を述べた一節がある。現代の作・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・ 所詮は我々のリアリズムも甚だ当にならぬと云うほかはない。かたがた保吉は前のような無技巧に話を終ることにした。が、話の体裁は?――芸術は諸君の云うように何よりもまず内容である。形容などはどうでも差支えない。 五 幻燈・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・彼等の文学は、ただ俳句的リアリズムと短歌的なリリシズムに支えられ、文化主義の知性に彩られて、いちはやく造型美術的完成の境地に逃げ込もうとする文学である。そして、彼等はただ老境に憧れ、年輪的な人間完成、いや、渋くさびた老枯を目標に生活し、そし・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・武田さん自身言っていたように「リアリズムの果ての象徴の門に辿りついた」のが、これらの一見私小説風の淡い味の短篇ではなかったか。淡い味にひめた象徴の世界を覗っていたのであろう。泉鏡花の作品のようにお化けが出ていたりしていた。もっとも鏡花のお化・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・「リアリズムの極致なユーモアだよ」とその当時私は友人の顔を見るたび言っていたが、無論お定の事件からこんな文学論を引き出すのは、脱線であったろう。 が、とにかく私は笑えばいいと思った。女の生理の悲しさについて深刻に悩むことなぞありゃし・・・ 織田作之助 「世相」
・・・の作品は武田さんの二十代か三十二三の頃のものであった。近頃の三十歳前後の作家は何をボヤボヤしているかと言いたいくらい、これらの作品は優れている。が、武田さんは「日本三文オペラ」から「銀座八丁」のリアリズムを通って、遂に「雪の話」一巻の象徴の・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・ 学生時代に女性侮蔑のリアリズムを衒うが如きは、鋭敏に似て実は上すべりであり、決して大成する所以ではないのである。すべてを順直にということが青年のモットーでなければならぬ。ませた青年になろうとするな。大きく、稚なく、純熱であれ。それがや・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・私は、見られて、みんごと糞リアリズムになっちゃった。笑いごとじゃない。十万億土、奈落の底まで私は落ちた。洗っても、洗っても、私は、断じて昔の私ではない。一瞬間で、私はこんなに無残に落ちてしまった。夢のようだ。ああ、夢であってくれたら。いやい・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・高いリアリズムが、女のこの不埒と浮遊を、しっかり抑えて、かしゃくなくあばいて呉れたなら、私たち自身も、からだがきまって、どのくらい楽か知れないとも思われるのですが、女のこの底知れぬ「悪魔」には、誰も触らず、見ないふりをして、それだから、いろ・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・いつか友人がまじめくさった顔をして、バアナアド・ショオが日本に生れたらとても作家生活が出来なかったろう、という述懐をもらしたので私も真面目に、日本のリアリズムの深さなどを考え、要するに心境の問題なのだからね、と言い、それからまた二つ三つ意見・・・ 太宰治 「服装に就いて」
出典:青空文庫