・・・具体的に言ってみないか、リアリズムの筆法でね。女のことを語るときには、この筆法に限るようだ。寝巻は、やはり、長襦袢かね?」 このような女がいたなら、死なずにすむのだがというような、お互いの胸の奥底にひめたる、あこがれの人の影像をさぐり合・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・などでも日本映画としては相当進歩したものではあろうが、しかし配役があまりに定石的で、あまりに板につき過ぎているためにかえってなんとなくステールな糠味噌のようなにおいがして、せっかくのネオ・リアリズムの「ネオ」がきかなくなるように感ぜられた。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・これがドイツへはいると、たちまちに器械化数学化した鉄筋式リアリズムになるのが妙である。 ヒアガルの絵のように一幅の画面に一見ほとんど雑然といろいろなものを気違いの夢の中の群像とでもいったように並べたのがある。日本人でもこのまねをするあほ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それに関連する創作方法の問題として、リアリズムの実践も深めなければならなくなって来るのである。 平和が齎されたとき、一つの文化的な記念として戦線から兵士たちが家郷に送った家信集が、是非収録出版されるべきである。今日、所謂高級ではない雑誌・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ わたしたちの人生と文学の偶然はこうして、偶然から意味ふかい必然に移ってゆく。リアリズムは、人間の生きる社会とその階級の歴史と個人の複雑な発展の諸関係を、社会の歴史と個人の諸要因の綜合的な動きそのものの中で現実的に掴もうとする本質によっ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・二十世紀に入ってから世界の文学は、絶えず自身を新しく生れかわらそうとして七転八倒しつづけて来たが、その意味では第一次大戦後におこったシュール・リアリズムさえも、古い資本主義社会の機能のもとで苦しむ小市民の魂の反抗の影絵でしかなかった。社会主・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ 文学におけるリアリズムの歴史としてみれば、この時代から、日本のブルジョア・リアリズムはこれまでの落つきを失った。そして、その限界をのりこえてより社会的に発展するか、またはより主観的なものに細分され奇形で無力なものになってゆくかの岐路に・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・がもっている基本課題をとりあげ、それを正当に推進させようとする努力において、ちっとも古びていないばかりか、民主主義文学の時代に入ってからこと新しく揉まれて来ている階級性の問題、主体性の問題、社会主義的リアリズムの問題、文学と政治の問題などが・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・それを書けば、諷刺より極めて弁証法的に扱われたリアリズムの小説になってしまう。 諷刺文学はいわばプロレタリア文学の行動隊である。 形は小さいが、活々したモーメントを批判し、到るところで、いろんな形で、敵の攻撃と自己批判をやってゆく、・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・をかきながら、自分の文学のリアリズムに息がつまって、午前中小説をかけば午後は小説をかくよりももっと熱中して南画をかき、空想の山河に休んだということは、何故漱石のリアリズムが彼を窒息させたかという文学上の問題をおいても、大正初期の日本文化の一・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
出典:青空文庫