・・・したがって、西欧の近代文学の中軸として発展してきた一個の社会人として自立した自我の観念も、日本ではからくも夏目漱石において、不具な頂点の形を示した。リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・そういう一見はっきりした潔癖性、この人生における座の構えによって、その構えを可能にしている土台のある限り、志賀氏のリアリズムは「万暦赤絵」の境地に安坐するであろう。そう思ったのであった。「強者連盟」の梅雄の生活感情を読み、「新しき塩」で・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・丁度ソヴェト同盟では前年に第一次五ヵ年計画を完遂した結果、これまでのプロレタリア芸術理論を発展させるような社会条件がそなわって来て、従来の唯物弁証法的創作方法を、社会主義的リアリズムにおしすすめた。その社会主義的リアリズムの創作方法の理論は・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ ソヴェトの五箇年計画は、どんなにソヴェト同盟内の社会生活を飛躍させたか、生産における社会主義的前進が、ソヴェトの一般芸術をどんな力で、強固なプロレタリア・リアリズムの大道へ据えつける結果となったか。それ等について、ホントに知りたい読者・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・新しい理解で芸術におけるリアリズムが提唱された場合にも、持ち出されかたはほぼ同様であった。 私には、自身のその経験――色が分っているがその色として感情にまで感覚されなかった時のおどろきが、その原因となった疲労から恢復した後も忘られなかっ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・にも、強靭なリアリズムの手法と並んで、クリンガーの影響と言われたケーテのシムボリズムがところどころに現れていることである。死の象徴として骸骨が「織匠」第二枚目にあらわれているばかりでなく、「死と女」その他後期の画面にも使われている。 ロ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・はげしい前線の生活も経験して来た壮年の一部の作家たちが、戦後日本の錯雑した現実に面して、過去の私小説的なリアリズムの限界の内にとどまっているにたえないのは必然である。日本の社会現実を全面的にすくい上げようとして彼ら一部の作家たちは新しい投げ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ 明治末期から大正にかけて、日本のブルジョア・インテリゲンツィアの文学の一つを代表した作家夏目漱石は、文学的生涯の終りに、自分のリアリズムにゆきづまって、東洋風な現実からの逃避の欲望と、近代的な現実探究の態度との間に宙ぶらりんとなって、・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・天界にはいったがためにびくつかないのなら、リアリズムの精神の深さというものは、いつでも天界へはいれる用意だけはしているものである。 宇野浩二氏は親心のびくつく大切な心理を圧えることに用心をされたのではなく、不恰好にそれをださないことに用・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・我々があらゆる偉大な芸術は realism であるという時、この realismは、内なる美の真実であることを、あるいは内なる美が存在することを、意味するのである。しからざればドストイェフスキイが自己を realist と呼んだ意味は通じな・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫