・・・それからたしかルツェルンかチューリヒ湖畔の風景もあった。スイスの湖水と氷河の幻はそれから約二十年の間自分につきまとっていた。そうしてとうとう身親しくその地をおとずれる日が来たのであったが、その時からまたさらに二十年を隔てた今の自分には、この・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・ ゼネヴからベルン、チューリヒ、ルツェルンなどを見て回りました。ルツェルンには戦争と平和の博物館というのがあって、日露戦争の部には俗悪な錦絵がたくさん陳列してあったので少しいやになりました。至るところの谷や斜面には牧場が連なり、りんごが・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・ ルツェルンも想像のほかに美しかった。ここから先の地形が、なんとなく横浜大船間の丘陵起伏の模様と似通っていた。とある農家の裏畑では、若い女が畑仕事をしているのを見つけた。完全に発育している腰から下に裾の広がった袴を着けて、がんじょうな靴・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫