・・・ 近づいてみると、ちょうどルビーのように、美しくすきとおる、なにかの小さい実が、ざくろのとげにつきさされていたのでした。「どうして、こんなところに赤い実がつきさされているのだろう。」 義雄さんは、赤い実をとげからぬき取って、木か・・・ 小川未明 「赤い実」
・・・ 燕温泉に行った時、ルビーのような、赤い実のついている苔桃を見つけて、幽邃のかぎりに感じたことがあります。日光の射さない、湿っぽい木蔭に、霧にぬれている姿は、道ばたの石の間から、伸び出て咲いている雪のような梅鉢草の花と共に、何となく・・・ 小川未明 「果物の幻想」
・・・血の色には汚れがあり、焔の色には苦熱があり、ルビーの色は硬くて脆い。血の汚れを去り、焔の熱を奪い、ルビーを霊泉の水に溶かしでもしたら彼の円山の緋鶏頭の色に似た色になるであろうか。 定山渓も登別もどこも見ず、アイヌにも熊にも逢わないで帰っ・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・…… 夕飯後に甲板へ出て見るとまっ黒なホンコンの山にはふもとから頂上へかけていろいろの灯がともって、宝石をちりばめた王冠のようにキラキラ光っている。ルビーやエメラルドのような一つ一つの灯は濃密な南国の夜の空気の奥にいきいきとしてまたたい・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 新型式中でも最も思い切った新型式としては、モザイックのような表象を漢字交じりで並べたテキストに、そのテキストとはだいぶかけ離れたルビーを並立させたものがある。これらになるともう単に俳句としての型式だけの変異ではなくて、詩というものの本・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ こんな事を始めて気づいて驚いている私の鼻の先に突き出た楓の小枝の一つ一つの先端には、ルビーやガーネットのように輝く新芽がもうだいぶ芽らしい形をしてふくらんでいた。 寺田寅彦 「春六題」
・・・三面記事が少しもなくて、うるさいルビーがなかった。私は毎朝あれをただあけて見るだけで気持ちがよかった。ああいう新聞は今日では到底存在を維持しにくいそうである。 今年の正月にノースクリッフ卿がコロンボでタイムスの通信員に話した談話の中に、・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・最後に金剛石とかルビーとか何か宝石を身に着けなければ夜会へは出ませんよと断然申します。さすがの御亭主もこれには辟易致しましたが、ついに一計を案じて、朋友の細君に、こういう飾りいっさいの品々を所持しているものがあるのを幸い、ただ一晩だけと云う・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・まったく向う岸の野原に大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗いろのつめたそうな天をも焦がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えているのでした。「あれは何の火だろう。あんな・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・僕のもってるルビーの壺やなんかより、もっといい宝石は、どっちへ行ったらあるだろうね」 大臣の子が申しました。「虹の脚もとにルビーの絵の具皿があるそうです」 王子が口早に言いました。「おい、取りに行こうか。行こう」「今すぐ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
出典:青空文庫