・・・斉田は岩石の標本番号をあらためて包み直したりレッテルを張ったりした。そしてすっかり夜になった。 さっきから台所でことことやっていた二十ばかりの眼の大きな女がきまり悪そうに夕食を運んで来た。その剥げた薄い膳には干した川魚を煮た椀と幾片かの・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・給仕がそばからレッテルのない大きな瓶からいままでみんなの呑んでいた酒を注ごうとしました。わたくしはそこで云いました。「いや、わたしたちはね、酒は呑まないんだから炭酸水でもおくれ。」「炭酸水はありません。」給仕が云いました。「それ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ やがて、レコードのレッテルの色で、メルバの独唱だのアンビル・コーラスだのいろいろ見分けがつくようになり、しまいには夕飯のあとでなど「百合ちゃん、チクオンキやる」と立って変な鼻声で、しかも実に調子をそっくり「マイマイユーメ、テンヒンホー・・・ 宮本百合子 「きのうときょう」
・・・あいつは赤だ、という迷惑なレッテルは、どこの職場でも、「聖戦」に何か批評を加えるものにはられた。それが、いつの間にかさかさになって、世界のファシストたちが、平和をみだす軍国主義者は共産主義者だなどといいはじめたのはなぜだろう。共産主義者その・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・鞄の中ほどまで色様々な茶の錫紙のレッテル、靴墨、鰯の空罐などがぎっしり詰っていた。「何があるの?」「今わかるよ……」 サーシャは鞄を両足で抱え、その上へかがみかかって祈祷をとなえた。「天の王様……」 今に玩具が現れるだろうと・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・p.79 共和主義なんてレッテルとポリテクニックの放校生なんていまいましい汚名を雪ごうと思った。デリケートで気のきいた、むずかしい――そう云った行動ばかりする気でいた。ところが五十四フランのがくぶちと五フランの石刷画ですむんだ。リュ・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
出典:青空文庫