・・・洒落た切子細工や典雅なロココ趣味の浮模様を持った琥珀色や翡翠色の香水壜。煙管、小刀、石鹸、煙草。私はそんなものを見るのに小一時間も費すことがあった。そして結局一等いい鉛筆を一本買うくらいの贅沢をするのだった。しかしここももうその頃の私にとっ・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・あ、そうだ。ロココ料理にしよう。これは、私の考案したものでございまして。お皿ひとつひとつに、それぞれ、ハムや卵や、パセリや、キャベツ、ほうれんそう、お台所に残って在るもの一切合切、いろとりどりに、美しく配合させて、手際よく並べて出すのであっ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 西洋でいつのころから今のようなステッキが行なわれだしたものか知らないが、ロココの時代には貴婦人がたがリボン付きの長い杖をついている絵がある。またそのころのやさ男が粉をふりかけた鬘のしっぽをリボンで結んで、細身のステッキを小脇にかかえ込・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・ツェペリン飛行船が舞台の真中に着陸する、その前でロココ時代の宮庭と現代の世界との混合したような夢幻の光景が渦を巻いたといったような気がするだけである。ジァンペートロというバリートンが当時異常な人気を呼んでいて、なんでもある貴族の未亡人から、・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・者をして断言せしむれば、日本人独特固有の趣味とまで解釈されている位で、室内装飾の一例を以てしても、床柱には必ず皮のついたままの天然木を用いたり花を活けるに切り放した青竹の筒を以てするなどは、なるほど Rococo 式にも Empire 式に・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・金色のレースが張ってあって、細い色リボンの花飾りがついていて、ローマッチをこするザラザラがある。ロココまがいのけちくさいもの。その中から紙片を出して本に貼る。 ガラスの角ばったペン皿のとなりに置いて。ペン皿には御存知の赤い丸い球のクリー・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ラインハルトの近代ロココ趣味や、ピスカートルの上手さあまって反社会主義的効果をもたらしたようなものを見た。 ――パリのグラン・ギニョールを見たか? 有名じゃないかあれは、ああいうものはソヴェトにあるかい? ――無くて仕合わせだ。ひど・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 緑色の仕着せを着た音楽隊はフィガロの婚礼を奏し、飾棚にロココの女の入黒子で流眄する。無数の下駄の歯の音が日本的騒音で石の床から硝子の円天井へ反響した。 エスカレータアで投げ上げられた群集は、大抵建物の拱廊から下を覗いた。八階から段・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
出典:青空文庫