・・・こゝに、彼等のロマンチシズムがある。 しかし、曾て、どこにも、正義の国というものは見出されなかった。正義のみの村落、もしくは、美のみの郷土というものは、探し出されなかった。たとえば、人間に共通した真理はある。理想はある。感情はある。けれ・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・ かのロマンチシズムの恍洋たる波に揺られて、年若くして死んだ、キイツ、シェリー、透谷、樗牛、其の詩人等を惜しみ、人間は、若く、美しい時分に死すべきものだ。年とって、感情が涸渇し、たゞ利害のみに敏く、羞恥をすら感ぜぬようになって、醜悪の姿・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・恍洋たるロマンチシズムの世界には、何人も、強制を布くことを許さぬ。こゝでは、自由と美と正義が凱歌を奏している。我等は、文芸に於てこそ、最も自由なるのではないか。誰か、文芸は、政治に従属しなければならぬという? ふたゝび、ロマンシズムの自・・・ 小川未明 「自由なる空想」
・・・ かくのごとくにして、人生は、常にロマンチシズムによって、更新される。また、芸術形式単純化は、即ち、資本主義的文化、強権主義的文化に対する、唯一つ反逆なのだ。 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・一切の虚偽を破壊するものは、常に、心の底に流れる、この単純化のロマンチシズムであることを忘れてはならない。 小川未明 「常に自然は語る」
私は、その青春時代を顧みると、ちょうど日本に、西欧のロマンチシズムの流れが、その頃、漸く入って来たのでないかと思われる。詩壇に、『星菫派』と称せられた、恋愛至上主義の思潮は、たしかに、このロマンチシズムの御影であった。 それは、ち・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
信じるより他は無いと思う。私は、馬鹿正直に信じる。ロマンチシズムに拠って、夢の力に拠って、難関を突破しようと気構えている時、よせ、よせ、帯がほどけているじゃないか等と人の悪い忠告は、言うもので無い。信頼して、ついて行くのが・・・ 太宰治 「かすかな声」
・・・僕もその小説は余程まえにいちど読んだことがあって、あのかそけきロマンチシズムは、永く僕の心をとらえ離さなかったものであるが、けれどもあのなかのあまりにもよろずに綺麗すぎる主人公にモデルがあったとは知らなかったのである。老人の頭ででっちあげら・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・というロマンチシズムには、やっぱり胸が躍ります。日本には、戦争を主として描写する作家も居りますけれど、また、戦争は、さっぱり書けず、平和の人の姿だけを書きつづけている作家もあります。きのう永井荷風という日本の老大家の小説集を読んでいたら、そ・・・ 太宰治 「三月三十日」
・・・ その夜の話題は何であったか。ロマンチシズム、新体制、そんな事を戸石君は無邪気に質問したのではなかったかしら。その夜は、おもに私と戸石君と二人で話し合ったような形になって、三田君は傍で、微笑んで聞いていたが、時々かすかに首肯き、その首肯・・・ 太宰治 「散華」
出典:青空文庫