・・・「それは余りロマンティックだ。」「ロマンティックなのがどこが悪い? 歩いて行きたいと思いながら、歩いて行かないのは意気地なしばかりだ。凍死しても何でも歩いて見ろ。……」 彼は突然口調を変え Brother と僕に声をかけた。・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・ Ich-Roman と云う意味は一人称を用いた小説である。必ずしもその「わたくし」なるものは作家自身と定まってはいない。が、日本の「わたくし」小説は常にその「わたくし」なるものを作家自身とする小説である。いや、時には作家自身の閲歴談と見ら・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ まるで日本の伝統的小説である身辺小説のように、簡素、単純で、伝統が作った紋切型の中でただ少数の細かいニュアンスを味っているだけにすぎず、詩的であるかも知れないが、散文的な豊富さはなく、大きなロマンや、近代的な虚構の新しさに発展して行く・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・彼等の才能の不足もさることながら、虚構の群像が描き出すロマンを人間の可能性の場としようという近代小説への手の努力も、兎や虫を観察する眼にくらべれば、ついに空しい努力だと思わねばならなかったところに、日本の芸術観の狭さがあり、近代の否定があっ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
信じるより他は無いと思う。私は、馬鹿正直に信じる。ロマンチシズムに拠って、夢の力に拠って、難関を突破しようと気構えている時、よせ、よせ、帯がほどけているじゃないか等と人の悪い忠告は、言うもので無い。信頼して、ついて行くのが・・・ 太宰治 「かすかな声」
・・・これぞ、まことのロマン調。すすまむ哉。あす知れぬいのち。自動車は、本牧の、とあるホテルのまえにとまった。ナポレオンに似たひとだな、と思っていたら、やがてその女のひとの寝室に案内され枕もとを見ると、ナポレオンの写真がちゃんと飾られていた。誰し・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・新ロマン派の君の小説が深沼氏の推讃するところとなって、君が発奮する気になったとは二重のよろこびである。自信さえあれば、万事はそれでうまく行く。文壇も社会も、みんな自信だけの問題だと、小生痛感している。その自信を持たしてくれるのは、自分の仕事・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・日本的ロマンの、」鼻祖と言いかけて、熊本君のいまの憂鬱要因に気がつき、「元祖ですね。」と言い直した。 熊本君は、救われた様子であった。急にまた、すまし返って、「たしかに、そんなところもありますね。」赤い唇を、きゅっと引き締めた。「僕・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・これを仮りに名づけて、われら、「ロマン派の勝利。」という。誇れよ! わがリアリスト、これこそは、君が忍苦三十年の生んだ子、玉の子、光の子である。 この子の瞳の青さを笑うな。羞恥深き、いまだ膚やわらかき赤子なれば。獅子を真似びて三日目・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ ジュール・ロマンという人が、フランス人の作ったいわゆるハイカイを批評した言葉の中におおよそ次のような意味の苦言がある。「俳句の価値はすべての固定形の詩の場合と同様に詩形の固定していること、形式を規定する制約の厳重なことに存している。か・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
出典:青空文庫