・・・人の妻となってからは、当時の女庭訓的な思想のために、在来の家庭的な、いわゆるハウスワイフというような型に入ろうと努め、また入りおおせた。しかし性質の根柢にある烈しいものが、間々現われた。若い時には極度に苦しんだり悲しんだりすると、往々卒倒し・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・やがて、「君は島田のワイフの咄を何処かで聞いたろう?」「どんな話をです?」と、氏の問が能く呑込めないので訊き返したが、その時偶っと胸に浮んだのは沼南外遊中からの夫人の芳ばしからぬ噂であった。ツイその数日前の或る新聞にも、「開国始末」で冤・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・もうきっと、あなたと一緒になれるものと錯覚してしまって、心の中では、あなたをワイフと呼んで待っていましたのに、あなたは、あれっきりもう帰って来ない。この地方では男は二十三、四になると、たいていお嫁をもらっているのです。私にもいろんな縁談があ・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・アメリカではいま、家庭の主婦のあいだに、ハウス・ワイフということばをなくそうという希望がおこっています。主婦の仕事は、はっきりした社会労働の一つだという考えがたかまっているわけです。ハウス・ワイフのかわりに、何か社会的勤労にふさわしいよび名・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・右の男は田舎の素封家の主人、真中はワイフ、左は職業婦人。この三人の気分がのっていますかね」と語りながらその絵と並んだ自身の写真を撮らせているのである。けれども、私にこの絵は必然性が疑われる絵として眼にのこった。 田舎素封家の漫画的鈍重さ・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
出典:青空文庫