・・・キューリー夫人のように自分の最愛の夫であり、唯一の科学の共働者であるものを突然不慮の災難によって奪い去らるる死別もあれば、ただ貧苦のためだけで一家が離散して生きなければならない生別もある。姉は島原妹は他国 桜花かや散りぢりに・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ でも、彼女の一家の生活を支えるには、あまりに金を持っていなすぎる。もっとよけいに俸給を取っている者が望ましい。 肉に饉えているのは兵卒ばかりではなかった。 松木の八十五倍以上の俸給を取っているえらい人もやはり貪慾に肉を求めてい・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・「ムム、それで六兵衛一家の基を成したというが、あるいはマアお話じゃ無いかネ。」「ところが御前で敲き毀すようなものを作ってはなりませぬ、是非とも気の済むようなものを作ってご覧をいただかねばなりませぬ。それが果して成るか成らぬか。そこに・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・ 記してあるのみならず、平生予に向っても昔し蘇東坡は極力孟子の文を学び、竟に孟子以外に一家を成すに至った。若しお前が私の文を学んで、私の文に似て居る間は私以上に出ることは出来ない。誰でも前人以外に新機軸を出さねばならぬと誨えられた。・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・入浴時間 十五分 規定の時間を守らざるものは入浴の順番取りかえることあるべし 警察の留置場にいたときよく、言問橋の袂に住んでいる「青空一家」や三河島のバタヤが引張られてきた。そんな連中は入ってくると、臭いジト/\したシ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・そこまで腰を据えてかかってごらん、一家を成せるかもしれない。まあ、二三年は旅だと思って出かけて行ってみてはどうだね。」 日ごろ田舎の好きな次郎ででもなかったら、私もこんなことを勧めはしなかった。「できるだけとうさんも、お前を助けるよ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イプセンを研究している。このごろ人形の家をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。ノラが、あのとき恋をしていた。お医者のランクに恋をしていたのだ。それを発見した。弟妹たちを呼び集めて、そ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・を宣伝するために、一家に風波が立つ。双方互角である場合はまだ幸いである。いずれか一方の勢力がまされば禍である。同じような事は、違った人生観や社会観を持った人々の群れの間に行なわれる。いずれも一つの善い事を宣伝せんために他の善い事の存在を否定・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ それからその一家の経済的窮状や、死活問題の繋っている鉱山の話などしながら、次ぎ次ぎに運ばれる料理を食べていた。二 おひろの家へ行ってみると、久しく見なかったおひろの姉のお絹が、上方風の長火鉢の傍にいて、薄暗いなかにほの・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・盗難のあった其れ以来、崖下の庭、古井戸の附近は、父を除いて一家中の異懼恐怖の中心点になった。丁度、西南戦争の後程もなく、世の中は、謀反人だの、刺客だの、強盗だのと、殺伐残忍の話ばかり、少しく門構の大きい地位ある人の屋敷や、土蔵の厳めしい商家・・・ 永井荷風 「狐」
出典:青空文庫