・・・これら僅か数篇の名詩だけでも、ニイチェは抒情詩人として一流の列に入り得るだらう。 ニイチェのショーペンハウエルに対する関係は、新約全書の旧約全書に対するやうなものである。だれも知る通り、旧約の神エホバは怒と復讐の神であり、新約の神は・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・こうした人々の談話の中には、農民一流の頑迷さが主張づけられていた。否でも応でも、彼らは自己の迷信的恐怖と実在性とを、私に強制しようとするのであった。だが私は、別のちがった興味でもって、人々の話を面白く傾聴していた。日本の諸国にあるこの種の部・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 彼は彼一流の方法で、やっつけるだけであった。 夜の二時頃であった。寝苦しい夏の夜も、森と川の面から撫でるように吹いて来る、軽い風で涼しくなった。 本田家は、それが大正年間の邸宅であろうとは思われないほどな、豪壮な建物とそれ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・余輩は、その内外を問わず、その人の身分にかかわらず、一般にこれを日本国中一流の人民とみなしてこれを論ぜんと欲するなり。 政談の中に漸進論と急進論なるものあれども、あまり分明なる区別にも非ず。いずれにも進の義は免かれず。ただ、その進の方法・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・官吏の内にても、一等官の如きはもっとも易からざる官職にして、尋常の才徳にては任に堪え難きものなるに、よくその職を奉じて過失もなきは、日本国中稀有の人物にして、その天稟の才徳、生来の教育、ともに第一流なりとて、一等勲章を賜わりて貴き位階を授く・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ で、外に翻訳の方法はないものかと種々研究して見ると、ジュコーフスキー一流のやり方が面白いと思われた。ジュコーフスキーはロシアの詩人であるが、寧ろ翻訳家として名を成している。バイロンを多く訳しているが、それが妙に巧い。尤も当時のロシアは・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・衣服は第一流の裁縫師に拵えさせる。冷水浴をして sport に熱中する。昔は Monsieur de Voltaire, Monsieur de Buffon だなんと云って、ロオマンチック派の文士が冷かしたものだが、ピエエルなんぞはたしか・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・芭蕉の俳句は変化多きところにおいて、雄渾なるところにおいて、高雅なるところにおいて、俳句界中第一流の人たるを得。この俳句はその創業の功より得たる名誉を加えて無上の賞讃を博したれども、余より見ればその賞讃は俳句の価値に対して過分の賞讃たるを認・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・実際こんなに川床が平らで水もきれいだし山の中の第一流の道路だ。どこまでものぼりたいのはあたりまえだ。向うの岸の方にうつろう。「先生この岩何す。」千葉だな。お父さんによく似ている。〔何に似てます。何でできてますか。〕だまっている。〔わ・・・ 宮沢賢治 「台川」
だいぶ古いことですが、イギリスの『タイムズ』という一流新聞の文芸附録に『乞食から国王まで』という本の紹介がのっていました。著者は四〇歳を越した一人の看護婦でした。二〇年余の看護婦としての経験と彼女の優秀な資格は、ロンドン市・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
出典:青空文庫