・・・毎晩お神明さんの、杉のうしろにかくれていて、来るやつを見ていたそうです、そしていよいよ網を入れて鯉が十疋もとれたとき、誰だっこらって出るんでしょう、魚も網も置いたまま一目散に逃げるでしょうバキチは笑ってそいつを持って警察の小使室へ帰るんです・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・と云ったら狐は頭をかかえて一目散に遁げたというのでした。けれどもそれを私は口に出しては云いませんでした。この時丁度、向うで終業のベルが鳴りましたので、先生は、「今日はここまでにして置きます。」と云って礼をしました。私は校長について校長室・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 私どもはそこでまるで一目散にその野原の一本みちを走りました。あんまり苦しくて息がつけなくなるととまって空を向いてあるきまたうしろを見てはかけ出し、走って走ってとうとう寺林についたのです。そこでみちからはなれてはんのきの中にかくれました・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・一人の学生が巡査の帽子を失敬して一目散に走り出した。その代りに三角帽をのせられた本人。いそいで追っかけている後でうまく逃げろ! と燕尾服のズボンに片手を突こみ片手には手袋を振って声援しているもう一人の学生。更に一人は瓦斯街燈にからみついて他・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 禰宜様宮田は、自分の体の中で何かしら大した幅のあるものが、足の方から頭の方へと一目散に馳け上ったような心持がした。 そして、彼のいい顔の上には、しん底からの微笑と啜泣が一緒くたになって現われた。「はあ、真当なこった。 若け・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫