・・・この姿を外にして私達一般人の人生はないのであるのに、それが抹殺されて、何のためにマダム・バタアフライのサクラ・バナやゲイシャや、フジサンのみを卑屈に修飾して提供しなければならないのであろうか。人民戦線が勝利して以来、フランス出版物の輸入をき・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・つまり、芸術家と普通人との間には、如何に、物象の観方に純粋さの差異があるか、又、その差異が、一種常套的な道徳感のようなものと結合して、一般人の胸からは、如何程抜き難いものになって居るか、と云うことの反省である。 事なら事を、其自体、人間・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 昨今作家の生活、作品が現代一般人の生活から浮き離れ読者の関心を失って来ているということの文壇人自身による自覚と、それに対する対策とがこの座談会でも真先に語られている。林房雄氏は、真面目な文学者評論家は当今意識的に文壇を離れたがっている・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・の小河内村が東京市の貯水池となることに決定してから、今日工事に着手されるまで六ヵ年の間に、小河内村の村民の蒙った経済的・精神的な損害の甚だしさは、こういう場合にあり勝で、謂わば既に手おくれになってから一般人の注意をひくようになった。悲劇が終・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・的な感覚のものである芸術の味得や評価をするに当って単にそれがつくられた時代の社会的環境の説明や当時の歴史がしからしめた認識の限界性だけを云々するだけでは終らないものであることは、既に正常な情感を具えた一般人に充分分っているところである。人類・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・先ず、各国の文化、批評を活溌に交換するために必要な雑誌や書籍類の自由な国際的購読が今日では一般人にとって困難になって来ている。一般生活に必要がないと認められる種類の新聞や本などというものは手に入れ難く、しかもその必要でないという結論は、決し・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・青年になったゴーリキイの気紛れを遮っているのは書籍なのであったが、読書すればする程、一般人の暮しているような詰らない必要のない生活をして行くのがいやになるばかりである。しかも、心の内側にぎっしりつめこまれている人生からの雑多な印象、驚くべき・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 所謂選良たちを選び出している一般人が、傍聴人となって議事堂の内にあらわれているわけなのだが、これと議員と議会というものの関係は、現実とはちょっと違った風に扱われているのが議事堂内で感じられる実際の空気である。議員は傍聴人というものを、・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・そういう記事報道を読む一般人の表情には、無関心か軽蔑か憎悪かが、一種の苦笑と共に浮んでいるのは何故なのであろうか。 今日の文明国同士のつき合いでその国の文化水準や芸術の成果はそれぞれ意味ふかい影響を与えあっている。日本も、軍事的行動に於・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・山本有三氏の正義感は、常識を備えた今日の一般人の胸の中に蔵せられている正義感の分量に丁度工合よくふれて行き、その扉をたたき、そして平凡な日常の中にそのまま通りすぎてゆく。読者の内に新しい疑問をかき立てて、その人間が鏡をとって改めて自分の顔を・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫