・・・内府も始終病身じゃと云うが、平家一門のためを計れば、一日も早く死んだが好い。その上またおれにしても、食色の二性を離れぬ事は、浄海入道と似たようなものじゃ。そう云う凡夫の取った天下は、やはり衆生のためにはならぬ。所詮人界が浄土になるには、御仏・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ ――第一に、林右衛門の立ち退いた趣を、一門衆へ通達しないのは、宇左衛門の罪である。第二に、まだ逆上の気味のある修理を、登城させたのも、やはり彼の責を免れない。佐渡守だったから、いいが、もし今日のような雑言を、列座の大名衆にでも云ったと・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・すると右舷の大砲が一門なぜか蓋を開かなかった。しかももう水平線には敵の艦隊の挙げる煙も幾すじかかすかにたなびいていた。この手ぬかりを見た水兵たちの一人は砲身の上へ跨るが早いか、身軽に砲口まで腹這って行き、両足で蓋を押しあけようとした。しかし・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・どうせ帰れば近所近辺、一門一類が寄って集って、」 と婀娜に唇の端を上げると、顰めた眉を掠めて落ちた、鬢の毛を、焦ったそうに、背へ投げて掻上げつつ、「この髪をむしりたくなるような思いをさせられるに極ってるけれど、東京へ来たら、生意気ら・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・和郎たちは、一族一門、代々それがために皆怪我をするのじゃよ。」「違うでしゅ、それでした怪我ならば、自業自得で怨恨はないでしゅ。……蛙手に、底を泳ぎ寄って、口をぱくりと、」「その口でか、その口じゃの。」「ヒ、ヒ、ヒ、空ざまに、波の・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・従って、一門の誰かれが、大概洋傘を意に介しない。連れて不忍の蓮見から、入谷の朝顔などというみぎりは、一杯のんだ片頬の日影に、揃って扇子をかざしたのである。せずともいい真似をして。……勿論、蚊を、いや、蚊帳を曲して飲むほどのものが、歩行くに日・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・ 去ぬる……いやいや、いつの年も、盂蘭盆に墓地へ燈籠を供えて、心ばかり小さな燈を灯すのは、このあたりすべてかわりなく、親類一門、それぞれ知己の新仏へ志のやりとりをするから、十三日、迎火を焚く夜からは、寺々の卵塔は申すまでもない、野に山に・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・の文章を、うろ覚えのままに、東京のみんなに教えて、中村地平君はじめ、井伏さんのお耳まで汚し、一門、たいへん御心配にて、太宰のその一文にて、もしや、佐藤先生お困りのことあるまいかと、みなみな打ち寄りて相談、とにかく太宰を呼べ、と話まとまって散・・・ 太宰治 「創生記」
・・・試みに西川一草亭一門の生けた花を見れば、いかに草と木と、花と花と、花と花器とのモンタージュの洗練されうるかを知ることができる。文人風や遠州好みの床飾りもやはりそうである。庭作りもまたそれである。かしこの山ここの川から選り集めた名園の一石一木・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ある俳人の一門では長年の間に一人二人自殺した人はあったが、それはその人たちが長く俳句から遠ざかった後のことであったという。 要するにこれは全く自分の空想に過ぎないが、しかし自分の考えている歌と俳句との作者のその創作の瞬間における「自分」・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
出典:青空文庫