・・・ 但し、以下の一齣は、かつて、一樹、幹次郎が話したのを、ほとんどそのままである。「――その年の残暑の激しさといってはありませんでした。内中皆裸体です。六畳に三畳、二階が六畳という浅間ですから、開放しで皆見えますが、近所が近所だか・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・わたくしが始めてチャイコウスキイの作曲イウジェーン・オネーギンの一齣が其の本国人によって其の本国の語で唱われたのを聴得たのは有楽座興行の時であった。斯くの如き演奏は露西亜に赴くに非らざれば、欧洲に在っても容易に聴く機会なきものであろう。わた・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・これは、感性的・主観的にだけ流れてきていた日本の現代文学史の中で注目される一齣である。そして最も興味あることは、この現象が一人の作家の上に、大きい矛盾としてさえあらわれたことである。たとえば、わたしのように、文学における階級性の問題などまっ・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫