・・・やっと探り寄ってそこへ掛けようと思う時、丁度外を誰かが硝子提灯を持って通った。火影がちらと映って、自分の掛けようとしている所に、一人の男の寝ている髯面が見えた。フィンクは吃驚して気分がはっきりした。そして糞と云った。その声が思ったより高く一・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・ホラ晴た夜に空をジット眺めてると初めは少ししか見えなかった星が段だんいくらもいくらも見えて来ますネイ。丁度そういうように、ぼんやりおぼえてるあの時分のことを考うれば考えるほど、色々新しいことを思出して、今そこに見えたり聞えたりするような心持・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫