・・・が、いくら待ってもお敏の姿が見えないので、我知らず石河岸の前を離れながら、お島婆さんの家の方へ、半町ばかり歩いて来ると、右側に一軒洗湯があって、大きく桃の実を描いた上に、万病根治桃葉湯と唐めかした、ペンキ塗りの看板が出ています。お敏が湯に行・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・「それじゃ結局昔の草根木皮を調合した万病の薬が一番合理的ではないか」と聞いたら「まあ、そんなものだね」という返事であった。自分に必要なものを選択して摂取し、不用なもの有害なものを拒否し排出するのが、人間のみならずあらゆる生物の本性だというこ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・その愚の極度にいたりては、売薬をなめて万病を医せんと欲する者あり。上等社会にしてその知識の卑しきこと、実に驚くに堪えたり。 ひっきょう物理を度外視するの罪にして、あるいは人にして馬に若かずと評せらるるも、これに答うるの辞なかるべし。我が・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・俗にかぜは万病のもとと云いますがね。それから、ええと、も一つのご質問はあなたの命でしたかね。さよう、まあ長くても一万年は持ちません。お気の毒ですが一万年は持ちません。」「あああ、さっきのホンブレンのやつの呪いが利いたんだ。」「いや、・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫