・・・ 井侯が陛下の行幸を鳥居坂の私邸に仰いで団十郎一座の劇を御覧に供したのは劇を賤視する従来の陋見を破って千万言の論文よりも芸術の位置を高める数倍の効果があった。井侯の薨去当時、井侯の逸聞が伝えられるに方って、文壇の或る新人は井侯が団十郎を・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・一こと理窟を言いだしたら最後、あとからあとから、まだまだと前言を追いかけていって、とうとう千万言の註釈。そうして跡にのこるものは、頭痛と発熱と、ああ莫迦なことを言ったという自責。つづいて糞甕に落ちて溺死したいという発作。 私を信じなさい・・・ 太宰治 「玩具」
・・・試みにたったひとこまの皮膜に写った形像を精細に言葉で記載しようとしてもおそらく千万言を費やしてもなおすべてを尽くすことは不可能であろう。写真影像は現象の記載ではなくて、現象そのものだからである。 そのかわりに、あるいはそれだから、写真は・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・「諸君、祭司長は、只今既に、無言を以て百千万言を披瀝した。是れ、げにも尊き祭始の宣言である。然しながら、未だ祭司長の云わざる処もある。これ実に祭司長が述べんと欲するものの中の糟粕である。これをしも、祭司次長が諸君に告げんと欲して、敢て咎・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その事実のうちに、千万言にまさる道義が存在することを今にして会得するであろうと信じる。〔一九四六年四月〕 宮本百合子 「婦人の一票」
出典:青空文庫