・・・この卑下、正直、芸術尊敬の三つのエレメントが抱和した結果はどうかと云うに、まあ、こんな事を考える様になったんだ――将来は知らず、当時の自分が文壇に立つなどは僭越至極、芸術を辱しむる所以である。正直の理想にも叶って居らん……と思うものの、また・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・箒星が三つ四つ一処に出たかと思うような形で怪しげな色であった。今宵は地球と箒星とが衝突すると前からいうて居たその夜であったから箒星とも見えたのであろうが、善く見れば鬼灯提灯が夥しくかたまって高くさしあげられて居るのだ。それが浅草の雷門辺であ・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・学校の田のなかにはきっとひばりの巣が三つ四つある。実習している間になんべんも降りたのだ。けれども飛びあがるところはつい見なかった。ひばりは降りるときはわざと巣からはなれて降りるから飛びあがるとこを見なければ巣のありかはわからない。・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ 世界には、現在のところ、興味ある民主社会の三つの典型が並びあって生活している。朝鮮、中国や日本のように漸々と、封建的なのこりものをすてて近代民主化を完成しようと一歩ふみ出した国。アメリカ、イギリスのように資本主義の下での民主主義を完成・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・まだ帽子は二つ三つしか掛かっていなかった。 戸は開け放して、竹簾が垂れてある。お為着せの白服を着た給仕の側を通って、自分の机の処へ行く。先きへ出ているものも、まだ為事には掛からずに、扇などを使っている。「お早う」位を交換するのもある。黙・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ツァウォツキイはすぐに死んで、ユリアの名をまだ脣の上に留めながら、ポッケットに手品に使う白い球を三つと、きたない骨牌を一組入れたまま、死骸は鉄道の堤の上から転げ落ちた。 ツァウォツキイの死骸は墓地の石垣の傍に埋められた。その時グランの僧・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「なア、あれはほんとに好かろが、三つ位で出来るやろ。」「二つでええとも。あれでして貰うたら、安次もなかなか腐らへんわ。そりゃ結構や。」とお留は云った。「勘よ。お前これから帰んで、一寸拵えて来てくれんか。」 勘次は黙って帰って・・・ 横光利一 「南北」
・・・後に言った三つの書物は、背革の文字で見ると、ドイツの原書である。エルリングはドイツを読むと見える。書物の選択から推して見ると、この男は宗教哲学のようなものを研究しているらしい。 大きな望遠鏡が、高い台に据えて、海の方へ向けてある。後に聞・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・折ふし徳蔵おじは椽先で、霜に白んだ樅の木の上に、大きな星が二つ三つ光っている寒空をながめて、いつもになく、ひどく心配そうな、いかにも沈んだ顔付をしていましたッけが、いつか僕のいる方を向て、「ナニ、奥さまがナ、えらい遠方へ旅に行しッて、いつま・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・そうしてみると、これらの三つの点だけでも、応永時代は延喜時代よりも重要だと言わなくてはなるまい。 もっとも、この三つの点以外であげられている名人は、我々にはちょっと歯の立たない連中である。詩人では南禅寺の惟肖和尚が、二、三百年このかた、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫