・・・童子さまの脳はもうすっかり疲れて、白い網のようになって、ぶるぶるゆれ、その中に赤い大きな三日月が浮かんだり、そのへん一杯にぜんまいの芽のようなものが見えたり、また四角な変に柔らかな白いものが、だんだん拡がって恐ろしい大きな箱になったりするの・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・カムパネルラは、指でそっと、鷺の三日月がたの白い瞑った眼にさわりました。頭の上の槍のような白い毛もちゃんとついていました。「ね、そうでしょう。」鳥捕りは風呂敷を重ねて、またくるくると包んで紐でくくりました。誰がいったいここらで鷺なんぞ喰・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 一つ毎に、白い三日月のついた爪、うす紅の輪廓から、まぼしい光りの差す様な顔、つやつやしい歯、自分からは、幾十年の前に去ってしまった青年の輝やかしさをすべて持って居る達を見る毎に押えられないしっとが起った。 親として子の体を「やきも・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫