・・・短い角刈にした小さい顔と、うすい眉と、一重瞼の三白眼と、蒼黒い皮膚であった。身丈は私より確かに五寸はひくかった。私は、あくまで茶化してしまおうと思った。 ――ウイスキイが呑みたかったのさ。おいしそうだったからな。 ――おれだって呑み・・・ 太宰治 「逆行」
・・・一重瞼の三白眼で、眼尻がきりっと上っている。鼻は尋常で、唇は少し厚く、笑うと上唇がきゅっとまくれあがる。野性のものの感じである。髪は、うしろにたばねて、毛は少いほうの様である。ふたりの老人にさしはさまれて、無心らしく、しゃがんでいる。私が永・・・ 太宰治 「美少女」
・・・煙草の灰がたまりもしないのに三白眼でこっちを睨みつめながら指先をパタパタやって灰をおとす。その手も震えている。 目をうつすと、テーブルの脚のところに何本もしごいた拷問用の手拭がくくりつけてある。――いきなり、その一寸した隙に飛びかかるよ・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫