・・・優しい威厳に充ち満ちた上宮太子などの兄弟です。――が、そんな事を長々と御話しするのは、御約束の通りやめにしましょう。つまり私が申上げたいのは、泥烏須のようにこの国に来ても、勝つものはないと云う事なのです。」「まあ、御待ちなさい。御前さん・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・ 一事が万事、丁稚奉公は義理にも辛くないとは言えなかったが、しかしはじめての盆に宿下りしてみると、実家はその二三日前に笠屋町から上ノ宮町の方へ移っていました。上宮中学の、蔵鷺庵という寺の真向いの路地の二軒目。そして、そこにはもう玉子はい・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・寒々とした薄暗い焼跡を上本町八丁目まで歩き、上宮中学のまえを真っ直ぐ三町ばかし行くと、右側にこぢんまりした二階建のしもた家があった。「ここです」天辰の主人が玄関の戸をあけると、その鈴の音で二十前後の娘が出て来た。唇をきっと結び、美しい眼・・・ 織田作之助 「世相」
・・・、小文吾が牛の闘を見に行きました時の伴をしました磯九郎という男だの、角太郎が妻の雛衣の投身せんとしたのを助けたる氷六だの、棄児をした現八の父の糠助だの、浜路の縁談を取持った軍木五倍二だの、押かけ聟の簸上宮六だの、浜路の父蟇六だの母の亀篠だの・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・そうかと思うと『源氏物語』や『続世継』などに尺八の名があり、さらに上宮太子が尺八を吹かれたという話がある、シナには唐あたりの古いところにもとにかく尺八の名がある。しかしそれらの名前に相応する品物がどこまで同一のものであったかはわからない。長・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
出典:青空文庫