・・・そのほか、新藤源四郎、河村伝兵衛、小山源五左衛門などは、原惣右衛門より上席でございますし、佐々小左衛門なども、吉田忠左衛門より身分は上でございますが、皆一挙が近づくにつれて、変心致しました。その中には、手前の親族の者もございます。して見れば・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・ そこで三蔵と申しまする、末が家へ坐りましたが、街道一の家繁昌、どういたして早やただの三蔵じゃあございません、寄合にも上席で、三蔵旦那でございまする。 誰のお庇だ、これも兄者人の御守護のせい何ぞ恩返しを、と神様あつかい、伏拝みまして・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・というだみ声が、上席のほうから発せられて、私は自分の行きどころの無い思いを一時にその上席のだみ声に向けて爆発させた。「うるせえ、だまっとれ!」と、確かに小声で言った筈なのだが、坐ってから、あたりを見廻すと、ひどく座が白けている。もう、駄・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・凡てその所作は人に見られん為にするなり、即ちその経札を幅ひろくし、衣の総を大きくし、饗宴の上席、会堂の上座、市場にての敬礼、また人にラビと呼ばるることを好む。されど汝らはラビの称を受くな。また、導師の称を受くな。 禍害なるかな、偽善なる・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 上席判事やみんなが一緒にうなずきました。その時向うのサンムトリの青い光がぐらぐらっとゆれました。それからよこの方へ少しまがったように見えましたが、忽ち山が水瓜を割ったようにまっ二つに開き、黄色や褐色の煙がぷうっと高く高く噴きあげました・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・本多は九郎右衛門に百石遣って、用人の上席にした。りよへも本多から「反物代千疋」を贈り、本多の母から「縞縮緬一反、交肴一折」を贈った。 文吉は酒井家の目附役所に呼び出されて、元表小使、山本九郎右衛門家来と云う資格で、「格段骨折奇特に附、小・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・また二箇月目に徳川将軍に謁見して、用人席にせられ、翌年両番上席にせられた。仲平が直参になったので、藩では謙助を召し出した。ついで謙助も昌平黌出役になったので、藩の名跡は安政四年に中村が須磨子に生ませた長女糸に、高橋圭三郎という壻を取って立て・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫