・・・ とほんのり瞼を染めながら、目を塞いでしかも頼母しそう、力としまするよう、小宮山の胸で顔を隠すように横顔を見せ、床を隔てながら櫛巻の頭を下げ、口の上辺まで衾の襟を引寄せましたが、やがてすやすやと寐入ったのでありまする。 その時の様子・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・グレシア正教の寺院を沈滞のままに委せて、上辺を真綿にくるむようにして、そっとして置いて、黔首を愚にするとでも云いたい政治をしている。その愚にせられた黔首が少しでも目を醒ますと、極端な無政府主義者になる。だからツアアルは平服を著た警察官が垣を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 芸術は上辺の思量から底に潜む衝動に這入って行く。絵画で移り行きのない色を塗ったり、音楽が chromatique の方嚮に変化を求めるように、文芸は印象を文章で現そうとする。衝動生活に這入って行くのが当り前である。衝動生活に這入って行・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫