・・・大気焔を吐き、挙句には小文吾が辞退して取らぬ謝礼の十貫文を独り合点で受け取って、いささか膂力のあるのを自慢に酔に乗じてその重いのを担ぎ出し、月夜に酔が醒め身が疲れて終に難にあうというのですが、いかにも下らない人間の下らなさ加減がさも有りそう・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・「何でも高くなりやあがる、ありがてえ世界だ、月に百両じゃあ食えねえようになるんでなくッちゃあ面白くねえ。「そりゃあどういう理屈だネ。「一揆がはじまりゃあ占めたもんだ。「下らないことをお言いで無い、そうすりゃあ汝はどうするとい・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・いや美しくはないけれど、でも、ひとりで生き抜こうとしている若い女性は、あんな下らない芸術家に恋々とぶら下り、私に半狂乱の決闘状など突きつける女よりは、きっと美しいに相違ない。そうだ、それは瞳の問題だ。いやもう、これはなかなか大変な奢りの気持・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・大概の教師はいろんな下らない問題を生徒にしかけて時間を空費している。生徒が知らない事を無理に聞いている。本当の疑問のしかけ方は、相手が知っているか、あるいは知り得る事を聞き出す事でなければならない。それで、こういう罪過の行われるところでは大・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そんな下らないことが、今から考えてみると、みんな後年の自分の生涯になんらかの反響を残しているように思われる。 実験室でも先生から与えられた仕事以外に何かしら自分勝手のいたずらをした、その記憶があたかも美しい青春の夢のように心の底に留まっ・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・ ある学者甲が見ると相当な価値があり興味があると思われる一つの論文が、他の学者乙の眼から見るとさっぱり価値のない下らないものに見えることがあり、また反対に甲の眼には平凡あるいは無意味と映ずる論文が、乙の眼には非常に有益な創見を示すものと・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・もし誰か金持の中の変り者でもあって、月並の下らないいわゆる社会事業などに出す金をこの方面に注いで、そうして適当な監督を見出し養成すればあるいは出来るかもしれないのである。しかしそれよりも先に一般民衆が教育映画というものの価値を十分に認めるこ・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ローマンチシズムは、己以上の偉大なるものを材料として取扱うから、感激的であるけれども、その材料が読む者聞く者には全く、没交渉で印象にヨソヨソしい所がある、これに引き換えてナチュラリズムは、如何に汚い下らないものでも、自分というものがその鏡に・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・図譜中にある建築彫刻絵画ともに、あるものは公平に評したら下らないだろうと思う。あるものは『源氏物語』や近松や西鶴以下かも知れない。しかしその優れたものになると決して文学程度のものとはいえない。われわれ日本の祖先がわれわれの背景として作ってく・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・間の観察の仕方とかがまた自然私の今日までやった学問やら研究に煩わされてどうも好きな方ばかりへ傾きやすいのは免かれがたいところでありますから、職業の如何、興味の如何に依っては、誠に面白くない駄弁に始って下らない饒舌に終ることだろうと思うのです・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫