・・・ おまえみたいな下劣な穿鑿好きがいるから、私まで、むきになって、こんな無智な愚かな弁明を、まじめな顔して言わなければならなくなるのだ。人の話は、だまって聞いているがよい。私は、嘘をついているのでは無いから。 恥辱を告白している、とまえに・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・最も下劣なものである。それを、男らしい「正義」かと思って自己満足しているものが大半である。国定忠治の映画の影響かも知れない。 真の正義とは、親分も無し、子分も無し、そうして自身も弱くて、何処かに収容せられてしまう姿に於て認められる。重ね・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ (幽へんな事をおっしゃいますわね。 知ってるよ。お前のあこがれのひとは、誰だか。 まあ! そんな。よして下さい! 下劣ですわ。 なんでも無いじゃないか。人間は皆、あこがれのひとを二人や三人持っているものだ。で、どうなんだい? ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・罪は、おれの下劣な血の中に在る。笑って呉れ。おれは、あの女に勝ちたい。あの人の肉体を、完全に、欲しい。それだけなんだ。おれは、あの人に、ずいぶんひどく軽蔑されて来ました。憎悪されて来た。けれども、おれには、おれの、念願があるのだ。いまに、お・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・己を捨てるということは、道徳から云えばやむをえず不徳も犯そうし、知識から云えば己の程度を下げて無知な事も云おうし、人情から云えば己の義理を低くして阿漕な仕打もしようし、趣味から云えば己の芸術眼を下げて下劣な好尚に投じようし、十中八九の場合悪・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・真を発揮すると云うともったいない言葉でありますが、まず彼らの職業の本分を云うと、もっとも下劣な意味において真を探ると申しても差支ないでしょう。それで彼らの職務にかかった有様を見ると一人前の人間じゃありません。道徳もなければ美感もない。荘厳の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ところが「教員生活の最初の下劣さ」として、先輩教員らのへつらい屈伏を目撃し二宮金次郎の話をして児童から「私は金次郎は感心ですけれど万兵衛はわるいと思います」といわれたことを契機に、猛然と自分のかけられてきた師範学校的世界観の魔睡を批判しはじ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・勿論、芸術品に対してそんな下劣な観賞者の言葉を気にする必要はないわけですが、この懸念が実際に女の心の中にあるのは、争われない事実であります。 二 仮りにそうしたデリケートな場合を想像するならば、此処に一人の・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ 男なんて随分下劣な事を平気で、云ったり仕たり出来る動物だなどとさえ思った。 何か口を動かす物でも出たと見えて、少しの間しずまった折を見て自分の書斎に入った私は、又じき今度は、前より十層倍もある様な声で、「浅間山何とかがどう・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・一方のより金の力のつよい側に一方の悪口をいったりするのは、おべっかか、お追従として、日本の気質が下劣と認めている態度である。 法学博士横田喜三郎氏が、『時論』五月号の評論に詳細に述べておられるとおり、第二次大戦で直接国土に戦禍をうけなか・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫