・・・多く夏の釣でありますから、泡盛だとか、柳蔭などというものが喜ばれたもので、置水屋ほど大きいものではありませんが上下箱というのに茶器酒器、食器も具えられ、ちょっとした下物、そんなものも仕込まれてあるような訳です。万事がそういう調子なのですから・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・「アア、酒も好い、下物も好い、お酌はお前だし、天下泰平という訳だな。アハハハハ。だがご馳走はこれっきりかナ。」「オホホ、厭ですネエ、お戯謔なすっては。今鴫焼を拵えてあげます。」と細君は主人が斜ならず機嫌のよいので自分も同じく胸が・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・「構うことあ無えやナ、岩崎でも三井でも敲き毀して酒の下物にしてくれらあ。「酔いもしない中からひどい管だねエ、バアジンへ押込んで煙草三本拾う方じゃあ無いかエ、ホホホホ。「馬鹿あ吐かせ、三銭の恨で執念をひく亡者の女房じゃあ汝だってち・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・酒のない猪口が幾たび飲まれるものでもなく、食いたくもない下物をむしッたり、煮えつく楽鍋に杯泉の水を加したり、三つ葉を挾んで見たり、いろいろに自分を持ち扱いながら、吉里がこちらを見ておらぬ隙を覘ッては、眼を放し得なかッたのである。隙を見損なッ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫