・・・地上の熱度漸く下降し草木漸く萠生し那辺箇辺の流潦中若干原素の偶然相抱合して蠢々然たる肉塊を造出し、日照し風乾かし耳目啓き手足動きて茲に乃ち人類なる者の初て成立せし以来、我日本の帝室は常に現在して一回も跡を斂めたることなし。我日本の帝室は開闢・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・ 上昇気流のために生ずる積雲が、下降気流その他の原因で消滅した跡には、これらの凝縮核の集合した層が取り残される。地上から仰いで見てはよく分らないが、飛行機でその層を横にすかして見ると、それが明らかな層をなして棚引き、いわゆる「塵の地平線・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・しばらくしてどれかが下降し始めると他のものもまた相前後して下降する。お互いに合図するのかまねをするのか、それとも外界の物理的化学的条件に応じて機械的に反応しているのか、どちらだか自分にはわからない。ただ同じ魚の群れが共同的の動作をするという・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・いかに古フォードがやすく買えて、労働者農民が電話、自動車をつかう率の高いアメリカでも、全国の経済が下降期にあって、農民の恐怖と、破綻を物語るスタインベックの「怒りの葡萄」がベスト・セラーズとなっているのが当時の社会の現実の面であった。ダイジ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・の読後、杉山氏はその作品を「下降的」なものと感じ、この感想を洩らしているのである。果して実際そうであろうか? 成程「地区の人々」は終りになればなるほど小説としての具象性を描写の上に失っている。明らかにそれは一つのマイナスである。けれ・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・素人の文学が、その生のままの生活感で日本の現代文学をより豊富なものにしてゆく速度よりも寧ろ、素人の文学としてうけいれられてゆくことの底をなしている今日の文化感覚の急速な下降を却って促進し肯定する形になっている方が、影響として顕著であるような・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・この短い文章で書きつくすことが不可能であるほど、重大な、深刻な現代日本におけるヒューマニズム下降線を、「新胎」は『文学界』の誌上に席を得て示しているのである。〔一九三七年八月〕 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫