・・・それでは僕も不本意だから、この際君に一切の事情をすっかり打ち明けてしまおうと思う。退屈でもどうか一通り、その女の話を聞いてくれ給え。「僕は君が知っている通り、松江に田を持っている。そうして毎年秋になると、一年の年貢を取り立てるために、僕・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・ 僕はきまりが悪い気がしたが、お袋にうぶな奴と見抜かれるのも不本意であったから、そ知らぬふりに見せかけ、「お父さんにもお目にかかっておきたいから、夕飯を向うのうなぎ屋へ御案内致しましょうか? おッ母さんも一緒に来て下さい」「それ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・かかる観念の上に道を求めたヒューマニズムが、日常不本意な勤務や労働や従順を強いられている一般市民の人間性に、その生き方として行動の指針となり得なかったのは当然であった。 三木氏によって云われた「主観性の昂揚」と「理論への情熱」という標語・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫